権力の空間/空間の権力 個人と国家の<あいだ>を設計せよ
ハンナ・アレントは『人間の条件』の中で、古代ギリシアの都市に触れて「私的なるものと公的なるものとの間にある一種の無人地帯」という奇妙な表現を使っている。ここで言われる「無人地帯」とは「ノー・マンズ・ランド(no man’s land)」の訳語である。そして、このノー・マンズ・ランドこそ、都市に暮らす人間にとっては決定的に重要だ、とアレントは言う。
本書では、この表現に注目した著者がアレントの主著を読み解きながら、現代の都市と人々の生活が抱える問題をあぶり出し、われわれが未来を生き抜くために必要な都市の姿を提示する。著者の唱える「地域社会圏」では、国家の官僚制的支配から自由になった人々が其々の能力と条件に応じて協同し、住民の転入・転出があっても確固として存在し続ける都市が実現される。
■はじめに
・第一章 「閾(しきい)」という空間概念
[no man's land] とは何か?
ポリスの空間構造、そして「閾」という空間概念
集落調査I 外面の現れ(appearance)、集落調査II「閾」のある家
・第二章 労働者住宅
アルバート館、労働者住宅の実験 親密なるもの
隔離される住宅、共同体的居住システム、[物化] という概念
・第三章 「世界」という空間を餌食にする「社会」という空間
労働は労苦なのか生きがいなのか、仕事の世界性
世界から社会へ、鳥のように自由な労働者
社会はどのように管理されるのか
・第四章 標準化=官僚制的管理空間
一円入札、権力は下から来る
官僚制的統治は空間的統治である、標準的空間
標準化という美学、「1住宅=1家族」システム
搾取されているのは労働力ではない
・第五章 「選挙専制主義」に対する「地域ごとの権力」
「性現象」のための住宅、模範農場で卵を産む鶏
世界を共有しているという感覚
住民参加による建築の設計、そして反対派
コミュニティという政治空間
選挙専制主義に対する評議会という権力
「地域社会圏」という考え方
著者:山本理顕
出版社:講談社
サイズ:四六
ページ数:262
発行年:2015.04
