闇市と東京
第二次世界大戦後の東京に形成された闇市は、しばしば無秩序な「混乱」の象徴として語られてきた。だが、本書はそれを単なる逸脱的存在としてではなく、戦後都市の形成を支えた重要な都市的実践として再評価する。あわせて、現在の再開発や都市文化を読み解く視点として、闇市の歴史的意義を位置づける。
戦後の焼け跡や建物疎開跡地といった「空地」に、いかにして市場が形成され、どのように都市へと組み込まれていったのか。終戦直後の物資不足と制度的空白のなかで、露店商やテキヤ組織、引揚者、行政など多様な主体が関与しながら、仮設的な市場空間が生成された。これらは単なる暫定的存在ではなく、後の都市構造や都市文化に持続的な影響を与えている。
本書は闇市を「無秩序な空間」ではなく、「空地を媒介として生成された都市の基層」として捉え直す。闇市は再開発や区画整理の中で解体・再編されていくが、その空間構造や社会関係は、横丁や飲食街として現在の都市文化に継承されている。本書が明らかにする占領復興期の闇市の形成史は、現代の都市を捉え直す視点を提供するとともに、冷戦期東アジアにおける仮設的市街地形成史研究の基盤を提示するものとなろう。
著者:石榑督和
出版社:創元社
サイズ:A5
ページ数:544
発行年:2026.09
