
シュペーア ヒトラーの建築家
本書はナチ・ドイツの帝国首都建設総監、軍需相を務めたアルベルト・シュペーア(1905-81)の伝記。生誕から、ナチの大規模建築政策と軍需生産の展開、ニュルンベルク国際軍事裁判と釈放後の活動までを追う。
首都ベルリン改造にあたっては、ユダヤ系市民が立ち退きを命じられ、建設現場や軍需工場でも、強制収容所の囚人、捕虜、外国人労働者らが「奴隷労働者」として虐待、酷使された。シュペーアがこうした「ナチ犯罪」に深く関わっていた事実を丹念に実証する。敗戦が近づく中、ヒトラーが出した「ネロ命令」(ドイツ領内のすべての軍事、交通、通信、工業、給養施設の破壊命令)には、戦後のドイツ再建を見据えて「抵抗」した。
敗戦後、シュペーアは逮捕され、主要戦争犯罪人としてニュルンベルク国際軍事裁判で裁かれた。労働者の虐待やユダヤ人絶滅政策は知らなかったと主張するが、「戦争犯罪」と「人道に対する罪」で有罪になった。
本書は、シュペーアが戦後に見せた「善良なるナチ」像の欺瞞を暴き、現代社会にも蔓延(はびこ)る「シュペーアたち」(倫理と良心に欠ける、支配層のインテリたち)の方が、「独裁者」より危険だと見なし、警鐘を鳴らす。
著者:マーティン・キッチン 著若林美佐知
出版社:白水社
サイズ:四六
ページ数:650
発行年:2024.06