解築学 解体から始まる建築と構成材の循環デザイン
日本ではすでに、「ないから建てる」という近代建築学の目的はとっくに達成され、人口減少も相まって、いまや建物は、あり余っている。建物を建てようと思ったら既に建物がある現代の建築行為は、まず「解体」から始まることがほとんどである。
しかし多くの建築学関係者は、建てることを急には止められない。わかってはいるけれどブレーキを踏まずにいる状態が続いている。
たとえば、地球環境に対する負荷を抑えたいと言う。ならば建てなければ良いと思うのだが、建てることを前提に環境負荷低減の評価基準を設けてみたりする。今ある建物は現行の耐震基準を満たしていないから、取り壊して新しく耐震的な建物を建てるのだと言う。「耐震改修をすれば良いのでは」と問えば、「お金がかかりすぎる」と言う。建て替えるよりは安いと思うのだけれど。
建築学は当初の目標を達成したこと、そして私たちは今その目標とした状態の中で暮らしているということ。そのことを、そろそろ皆で認めるべきではないだろうか。そして今求められるのは、新築ではなく既存建物の問題に向き合うための「解体から始まる建築学」=解築学ではないだろうか。
「建てる」ことにおいて展開されてきたこれまでの「建築学」は、「解体」とは事情が異なる。それらは、学術はもちろんのこと、循環の技術や制度、知識、産業、人材も未開な分野であり、ゴミ問題やアップサイクルなどの課題が山積みである。
本書は、思想・技術・制度・産業・人間の各側面から、この新しい学領域の輪郭を描き、これからの建築学につづく「解築学」を提示するものとする。
■目次
・序章
建て築くだけの学問ではどうにもならなくなった時代の教科書(松村秀一)
足るを知る・解体から始まる・循環という難題・本書の構成
・01章 解築の実例
#建物解体の最新技術
1-1 歴史的超高層ビルの解体 ―浜松町貿易センタービル(権藤智之)
1-2 毎日10 万人以上が使いながらの駅ビルの解体 ―新宿駅西口(星野勇樹・趙英傑)
#循環のための建築デザイン
1-3 リユースに挑戦したユニット住宅 ―積水化学「再築の家」(森下啓太朗)
1-4 姿を変えて愛され続けるための仮設建築の解体 ―ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier(永山祐子・徳渕正毅)
1-5 建て替えを前提としない住みながら更新し続ける戸建て住宅 ―ニカイメノイエ(中田裕一・中田理恵)
1-6 分解可能で廃棄物を生まない戸建て住宅 ―巡る間
1-7 材の余剰で組み替える プロジェクト/プロジェクト群 ―伊藤維建築設計事務所
#循環を実現する主体と仕組み(国内/国外)
1-8 廃棄物を情報として扱う資源循環ビジネス ―(株)ナカダイホールディングス
1-9 地域資源活用の文化拠点 ―ReBuilding Center Japan (権藤智之)
1-10 廃屋・廃材を引き受けるみんなの拠点 ―合同会社廃屋(権藤智之)
1-11 被災地にて救出される古材をリユースする活動 ―のと古材レスキュープロジェクト(江﨑青)
1-12 古建築の解体現場と修復現場をつなぐ施設 ―建材銀行 Materials Bank(台湾)(大嶋ありさ・林明侑奈)
1-13 欧州の解体材を循環させる組織 ―ROTOR / ROTOR DC(ベルギー)(山田宮土理)
1-14 解体材を循環させるインフォーマルなネットワーク ―Moelia Graha Estetika(インドネシア)(北里萌音)
#コンペにみる解築学の展望
1-15 『 解築学』を可視化する ― 「解体と循環の時代を切り拓け」日本建築学会主催学生設計競技の提案から(中谷礼仁)
02章 解築の思想
2-1 未来を「ほどく」知性、建築から解築へ(中谷礼仁)
2-2 建築の「解体と循環」の歴史 (加藤耕一)
2-3 解体と再構築における物質循環の理論的フレームワーク(西野辰哉)
2-4 ままならない円環と付き合う(岡部明子)
03章 解築の技術
3-1 解体技術の要点(輿石直幸)
3-2 解体材の性能評価(石山央樹)
3-3 構造部材のリユースによる循環(荒木美香)
3-4 内外装部材のリサイクルによる循環(磯部孝行)
3-5 設備部材の循環(中野淳太)
04章 解築と都市
4-1 縮退する都市の代謝と解築(饗庭伸)
4-2 解体除却が進まない廃止された公共建築(西野辰哉)
4-3 ままならない空き床を都市の資源に変える ―フリンジ都市中心部における公営コンバージョン(矢口哲也)
4-4 災害後に生じる解体の諸相(佃悠)
4-5 定期借地権マンションのライフサイクルから考える建設と解体(歌代純平)
4-6 リノベーションを前提とした建築と都市へ ―欧米諸国における建築/エリア再生(奥村誠一)
05章 解築と人間
5-1 不確実性をナビゲートする知恵(日埜直彦)
5-2 生態系建築の現代化への試み(山田宮土理)
5-3 解体の儀礼(権藤智之)
06章 解築と産業
6-1 解体建築の需要予測(権藤智之)
6-2 建築経済の中から外へと向かう解体と循環(高木啓司)
6-3 建築関連法体系と循環の関係性(杉浦美奈)
6-4 循環を可能にする社会システムのデザイン ―欧州における枠組みと研究プロジェクト(山田宮土理)
6-5 古材利用の源流と民家の再生(高口洋人)
6-6 新古材をめぐる新産業の創出可能性 ―循環と流転の狭間から(豊田訓平)
07章 解築学を巡る議論
第1回 循環における「時間」と「計画」の問題(二瓶雄太)
第2回 循環を支える仕組みの新しさと古さ(二瓶雄太)
第3回 循環に「計画」と「専門家」は必要なのか(二瓶雄太)
終章
循環から流転(トランスミュート)へ ―「解築学」の黎明期に起きていること(中谷礼仁)
可視化された解築・「循環経済」の熱力学的限界 放たれた水は散らばる・代謝の放物線が描く解築の地平・稲穂のごとき流転
著者:松村秀一、興石直幸、権藤智之、中谷礼仁、西野辰哉、山田宮土理
出版社:学芸出版社
サイズ:A5
ページ数:300
発行年:2026.09
