
建築家として生きる 職業としての建築家の社会学
日本の建築家はいかにつくられ、継承されてきたのか。現場の建築家たちはこの職業とどう向き合い、実践してきたのか。
ごく一部の有名建築家を除き、建築家として働く人たちの実態は、これまで意外なほど明らかにされていない。建築家という存在そのものがゆらぎはじめている現代、専門的な教育を受け、難関の資格試験をクリアし、建築家を自認するようになる彼・彼女たちは、どのように考え、動き、働いているのか。非意匠系の建築設計者、地方都市で活躍する建築家、さらには建築家を自認しない建築家など、さまざまな建築家の姿を、背景にある時代性とともに考察し、その輪郭を描きだす。
■目次
・序章 建築家の分析枠組み
・第I部 建築家の生成と変容をめぐって
第1章 職能の確立と消費社会との関連性
1 本章の目的
2 戦後復興期における建築家の役割
3 芸術としての住宅
4 商品化住宅の成熟
5 まとめ
第2章 「スター文化人」としての建築家の誕生
1 現代版ルネサンス的万能人としての建築家
2 野武士の時代
3 安藤忠雄の卓越化の方法
4 二極化していく建築家 一九九〇年代以降の状況
5 まとめ
・第II部「建築家のエートス」と職業としての建築家
第3章 「建築家のエートス」を涵養する場としての大学
標準化されない技術の習得を通したエートスの獲得過程
1 本章の目的
2 基礎教育を通した支配的ハビトゥスの形成
3 講評会という教育装置
4 建築家のエートスと大学教育
5 まとめ
第4章 建築家になる
1 本章の目的
2 建築家の自認と建築設計者のカテゴリー
3 建築士の業務
4 建築家へのファーストステップ
5 建築家を名乗る
6 まとめ
第5章 建築家として生きていく
1 本章の目的
2 建築家のマネタイズ
3 文学界の機序と建築家のとるべき戦略
4 短期的な生産周期の事業としての下請け仕事
5 長期的な生産周期の事業への取り組み
6 変えるところと変えないところ
7 地方におけるキャリアの達成
8 まとめ
第6章 建築家ではない設計者たちの職業世界
1 本章の目的
2 住宅会社の「設計士」 住宅産業界の機序とハビトゥス
3 住宅会社の建築士の住宅観と報酬に対する考え方
4 建築家のハビトゥスは、他の業界でどのように作用するか
5 設備設計士の職業世界
6 まとめ
・補論 建築士受験のセルフエスノグラフィ
1 はじめに
2 一級建築士を目指す
3 一級建築士への挑戦
4 一級建築士の設計製図問題をどう解くのか
5 一級建築士製図二年目
6 資格学校の面々
7 そして最後の本番
8 リスク社会としての後期近代と資格
・第III部 後期近代と建築家の変容
第7章 脱埋め込み化の進行と建築家の役割の変容
一九七〇年代以降の建築と都市をめぐる状況から
1 はじめに 脱埋め込みの進行
2 「個」としての建築家の後景化
3 外観が消えたハコとしてのショッピングモール
4 創造的復興と脱埋め込み 阪神・淡路大震災をめぐって
5 再埋め込みフェーズと「顔の見える専門家」
6 まとめ
第8章 コンピュータ・テクノロジーの進展と建築家の職能の変容
1 本章の目的
2 CADはどのように建築家の仕事を変えたのか
3 手描きからCADへの移行がもたらしたもの
4 建築家と工学
5 CAD時代の建築家の職能の信頼構造
6 一方向的な信頼から双方向的な共感へ
7 まとめ リスクを共有する信頼構造
第9章 「脱エートス」の建築家像と後期近代
1 本章の目的
2 研究対象・方法
3 建築家の職能拡張をめぐって
4 施工業との兼業禁止という規範と建築家のエートス
5 正当性の調達と行動を可能にする規範
6 「まち医者的建築家」の職業実践
7 新しい職能で報酬を得ることの難しさ
8 まとめ 「脱エートス」の建築家像と後期近代
・終章 後期近代と建築家のゆくえ
1 日本における建築家
2 職業としての建築家 再埋め込みプロセスと「プラスのプロフェッション」
3 今後の課題
著者:松村淳
出版社:晃洋書房
サイズ:A5
ページ数:316
発行年:2021.03