
空想から計画へ 近代都市に埋もれた夢の発掘
建築分野からアプローチする近代都市史の研究の中核となってきたのは、都市計画史である。これまでその研究がもっぱら扱ったのは、構想が成立するまでであった。しかし、最近になり、その構想が、実際の生活空間に放り込まれた後の過程を詳細に辿る研究が進むようになってきた。その過程とは、最初の企てを「空想」として見立てれば、それが実際に都市空間に落とし込まれて、現実の「計画」となっていく過程だと捉えられるのではないか。そう考えると、その過程にこそ、近代都市史研究の根幹をなすテーマが見出せるのではないか。
編者・中川理のこうした認識を「お題」として、本書の25本の論考は集められた。都市を読みとく、より広範で自由な議論を立ち上げる契機とするために―。
■目次
・空想から計画へ―巻頭言(中川理)
・Ⅰ 思念―思い描いた夢
大原孫三郎の田園都市構想と倉敷の都市計画(中野茂夫)
大正期京都のロマン主義と竹久夢二(高木博志)
建築構造学者・田辺平学とその時代―20世紀前半日本の建築学の都市への関与(初田香成)
兼岩伝一の都市計画思想(高嶋修一)
坂倉準三が戦時下で思い描いた「輝く都市」―「忠霊塔都市計画」に埋もれた「ル・コルビュジエ的なもの」(三木勲)
1900年代から1910年代の建築規則が求めたこと(西澤泰彦)
・II 周辺―夢が託される場
神戸市塩屋における外国人住宅地の開発と変容―E・W・ジェームス及び英国人資本家たちに着目して(水島あかね)
近代鎌倉の道路整備にみる「観光」と「住みよさ」の相克―日本自動車道路と新旧の住民(赤松加寿江)
巡礼と郊外―名古屋覚王山をめぐって(岩本馨)
台湾のヒルステーション(大田省一)
郊外は空想の跡か、残滓か ―ソウル京城・明水台住宅地と黒石洞の近代(砂本文彦)
・III 復興―自律と制御のなかで
戦災都市における復興構想と神戸の都市計画(村上しほり)
闇市転生を「空想」する―松本学の日本ヴォランタリー・チェーン構想と東京のテキヤたち(石榑督和)
戦後期横須賀における米軍属と地域住民―横須賀市秋谷地区を事例に(木川剛志)
昭和30年新潟大火復興の都市復興―戦後都市再開発の理想と現実(角哲)
戦後岐阜市における繊維問屋関連企業による従業員住宅の建設(荒木菜見子・中川理)
・IV 構造―地域と建築の変容を捉える
大阪新田地帯の近代―土地経営と地域社会構造の変容をめぐる空間論的転回(中嶋節子)
大阪・船場の改造と都市建築―第一次大阪都市計画事業における三休橋筋の拡幅を事例として(平井直樹・三宅拓也)
日本統治期の台湾における武徳殿の建設(西川博美・中川理)
台湾の伝統的環境におけるエッジとノードとしての「曉江亭」の空間構成(呉瑞真・黄蘭翔)
戦後沖縄における〈空間計画〉の夢と現実―基地都市コザを事例に(加藤政洋)
・Ⅴ 交通―持ち得た役割
明治期築港の目指したもの ―東京・横浜の艀運送との関係から(中尾俊介)
近代京都の道路拡築事業と町(岩本葉子)
台湾蘭陽平野における日本統治時代の地域開発―交通インフラの整備と産業の立地による工業都市羅東の発展(辻原万規彦)
「京城」における幹線街路網建設―1930年代を中心に(石田潤一郎)
著者:中川理、空想から計画へ編集委員会
出版社:思文閣
サイズ:A5
ページ数:750
発行年:2021.04