
「専売建築」と妻木頼黄 「標準化」の思想と実践
明治期に活躍した官僚建築家・妻木頼黄(1859-1916)は、当時の本邦建築界の中心的存在だった辰野金吾(1854-1919)に対峙した存在として知られる。彼が所掌した煙草と塩の専売制度施行のための施設群「専売建築」の計画・整備については、これまで体系的な研究の対象とされてこなかった。本書は、短時日での大量の施設計画を可能にした要素として、妻木以下の組織を挙げた「標準化」への志向を検討の起点に据える。計画の具体相を、関連する法令や諸制度の整備、人員調達や配置などの組織運営、技術・意匠に関する姿勢といった、ヒト/組織/モノの相関性から実証的に読み解き、明治後期から大正前期にかけての建築の近代化過程を新たな視角から捉え直す。
■目次
・序章 課題と視角
本書の目的と背景
既往研究の成果と本書の視座
本書の調査方法と対象史資料
本書の検討対象と構成
・第1章 大蔵省営繕組織の編成と実態
臨時葉煙草取扱所建築部の編成
臨時煙草製造準備局建築部の編成
大蔵省臨時建築部の編成
大蔵省営繕組織の任免書・出張命令書
・第2章 明治35 年提議の「営繕局」構想
史料『営繕局設置ニ関スル書類』の紹介と評価
「営繕局」設置案の提議内容
「営繕局」設置案のその後と影響
・第3章 葉煙草専売所の施設計画─「専売建築」の嚆矢と標準化の詳細─
施設計画の概要
工事運営管理の手法
「西洋形」の意味と実際
図面史料からみる出張所工事
・第4章 煙草製造所の施設計画 ─日露戦時下の制度施行とその後の段階的な施設整備─
民間工場の徴収
木造仮工場の新営工事
煉瓦造製造所の新営工事
・第5章 塩務局の施設計画─等級区分の細分化とその展開─
塩専売所仮建物の新営工事
塩務局の新営工事
・終章 「専売建築」の実像
・まとめ―妻木頼黄による「専売建築」―
・依拠史資料・参考文献一覧
・あとがき
・索引
著者:西山雄大
出版社:九州大学出版会
サイズ:B5
ページ数:242
発行年:2025.03