
空想の建築史
歴史とは常に更新してゆくべきものである。建築学の原点に立ち返り、古代ギリシア以来の「部分と全体」概念の再検討からはじまる、デジタルアーカイブの時代のための新しい建築史への探求の旅。
アリストテレス、ウィトルウィウス、ラスキンらの建築論を問い直し、ゼンパーやヴィオレ=ル=デュクが導いた近代的建築史学を疑う。
ザハ・ハディドの新国立競技場問題、原広司の問い、伊東豊雄の作品の意味までを取り上げながら、建築史学はいま、いかなる未来を描くのか?刺激的で根源的な問いを大胆に論じ、真に現代的な建築史を希求する畢生の一冊。
■目次
・はじめに
・第一章 体(コルプス)
体という問題提起/ウィトルウィウス/三部分論
全体と部分/自然学と形而上学と制作学
・第二章 個体
アリストテレスの類・種・個/西原清之の半導体論/原広司の有孔体論
・第三章 有機体
有機体という思想/ライト『有機的建築』
ギーディオンとゼヴィの有機体概念/「自然発生的」理念
デイヴィド・ワトキンとアントワーヌ・ピコン
・第四章 生・生命・生活
建築の生命/生命概念の系譜/生、生命、生活、人生、生涯
生権力と建築/「生」の二重化
・第五章 住宅
フランス住宅研究史/シャルル・ダヴィレによる理想的オテル平面図
日常/日常と四間というスケール/一七世紀のドミノ・システム
マンタリテ(心性)/ブドワールとジェンダー
「ギマール邸」すなわちテルプシコラの神殿
「デルヴィユ館」すなわち一八世紀パリの女性の空間
・第六章 テクネー
テクネー(技術)の二元論/樹幹と円柱/截石法とギルド的石工技術
鉄の建築史論/建築史はデジタル的なものをどうとらえるか/本棚をのぞけば
・第七章 学としての建築
学として/工学主義/原論的な設計教育/留学について
・第八章 再現
無限遠点/サン=ジル修道院と西洋建築の正史形成について
思想としての新国立競技場/啓蒙から野蛮へ 『建築の日本』展について
・第九章 日本とフランスのはざま
日本近代国家のアイコンをめぐって 折衷主義・純粋美学・弁証法
過去の構成と永遠の現在/虚構の時代の建築/一九六八年以降の編年記
伊東豊雄論/マイナス・ワン/日本建築史とフランス建築史の比較
・第一〇章 西洋建築史というフィールド
フィールドとしての西洋建築/歴史主義の現代性
福田晴虔のルネサンス建築史観/川向正人のゼンパー史観
切断の様式史という不都合/建築史の歴史
新しい時間フレームを下敷きにした建築史
・第一一章 ふたつの近代
はじめに/初期の都市ごとの建築家団体
第一の近代/一八三〇年代以降の一〇〇年
第二の近代/一九三〇年代以降の一〇〇年
ツリー的近代とリゾーム的近代
・第一二章 カント的転回
グリーンバーグとカント的転回/ニコラウス・ペヴスナーとデイヴィド・ワトキン
書評マルグレイヴ『近代建築理論全史』/建築史の自己‐批判
・第一三章 プラトンからアリストテレスへ
イデア論の無限遠点/建築の交換価値と共同体
・第一四章 ポリス(都市)
プラトン『国家』/ダマスカスの建築家アポロドロス
皇帝と国王の騎馬像/商都ボルドー/シュレンヌ田園都市
・第一五章 共感
パリの霊性死者の都市か生者の都市か 絆なき絆
サクレ=クール教会 絆なき絆/統合のモニュメントから分断のそれへ
・第一六章 カタルシス
・エピローグ 虚構から「信じる」へ
・建築史的な発想にかんする個人的な略史
著者:土居義岳
出版社:左右社
サイズ:A5
ページ数:636
発行年:2022.12